最近読んだ本・・・・城戸義雄

■ 小野田寛郎の終わらない戦い/著者:戸井十月
 今年の夏、何気なくつけたTVで小野田寛郎氏のインタビューが写った。終戦60年の番組の一つだったかもしれない。ホテルの一室で小野田さんはスーツ姿で、82才とは思えないきりっとした姿勢で話している。インタビュアーが戸井十月という人であることが判った。
 昭和49年に小野田さんがルバング島での30年の孤独な戦いを終えて帰国してから更に31年という、それなりの歳月が経ったことをあらためて認識する。日本に帰国して間もなくブラジルへ渡り、以来そこに住み続けている小野田さんについてはいろんな風評憶測がある。そして私も知りたかったのは何故、何を思い、日本が負けた後も30年間孤独な戦いを続けたのか、せっかく帰国出来たのになぜすぐに日本を出たのか、今振り返ってその日々をどう思っているのか、という点である。戸井十月のこれらの問いかけに小野田さんは丁寧に答え、私には、それが理解できる気がした。この本はそのインタビューを中心にまとめられたものである。戸井が「自由主義者で民主主義者だという小野田さんが、なぜ、あそこまで頑なに闘うことをやめようとしなかったんですか?」と問うと、小野田は少し考えてから「あれは、兵隊になったから兵隊らしくやったんでね。僕はらしく生きることを心がけているんです。その場その場でらしく生きる。変わり身が早いというと語弊があるかもしれないけど、でも、らしいというのが一番本当だと思うんです。」と答える下りがある。この本を読むうちに、かつて日本の大人の男たちが心の何処かで共有していた人生観とか生き様とかいったものを思い起す気がした。
 インタビュアーの戸井十月は、ゲバラの生い立ちからボリビアの山中でゲリラ戦に負傷して政府軍に捕まり殺害されるまでを描いた「ロシナンテの肋」(集英社)という本の著者でもある。60年安保世代の者にとってチェ・ゲバラの名前は今も眩しく感じるが、そんな思いを共有される方にはこの本もご一読をお薦めしたい。
■ 出版社/新潮社
■ B5版 190頁=1,470円(税込)