■「東京の環境を考える」
■ 編/神田 順+佐藤宏之
■ 出版社/朝倉書店
■ A5判232頁 = 3,400円+税

 東京大学では、1998年に新領域創成科学研究科を創設した。研究科を構成する3研究系の1つが環境学である。その1分野として、社会科学諸分野(考古学、社会学、社会心理学、経済学)及び建設系諸分野(建築学、都市計画、土木工学、衛生工学)を専門とする教官から成る社会文化環境学分野を設けた。本書は、環境学創成の第1歩として東京を題材にし、既往の縦割りの学問体系から社会文化環境学へ向けて歩み始めた、当分野の教官一同の前向きな取り組みの産物であり、13の論文が、2〜3章から成る5つの枠にまとめられて構成されている。
 「人はどのように環境に住むか」では、自然環境の変化とそれに応答してきた人類のたどった歴史的過程の考察及び江戸時代から20世紀の東京に至る市街地の拡大と変容過程を描写している。
 「都市空間を知るために」では、認知地図の特徴の検討及びリモートセンシングの利用について解説をしている。
「我々のつくった環境」では、一極集中の利益と交通混雑を調和させる方策及び東京の持続可能な交通戦略の検討、騒音と人間の生理的・心理的反応についての考察をしている。
 「自然との対応のために」では、建物の耐震や耐風安全性の問題も環境問題としての取り組みが必要であるとの提言、東京湾の高潮防災、赤潮・青潮対策、下水道システムの現状と問題点を概観している。
 「社会文化環境の構築へ向けて」では、環境に配慮した持続可能な建築のあり方、都市計画と市民の役割、持続的でコンパクトな都市形態について、提言している。
 本書は、新しい組織ができて日が浅いため、まだ体系化には程遠いとの憾みは免れないが、その一方で、東京を21世紀の町に造り上げようというときに、ここには欠かせないデータ、具体的な手法、ならびに新しい考え方が盛り込まれている。21世紀型の都市計画及び都市建設に関わる人は勿論、都市環境等に関心のある方々には必読の書と言えるであろう。(内山弘美・東京大学先端科学技術研究センター)