■「進化する建築保全 -LCCからFMまで-」
■ 編著/巽 和夫+柏原士郎+古阪秀三
■ 出版社/学芸出版社
■ A5版 230頁 = 2,400円円+税

 建築の新規投資が減速して、建築のストックが年々増大しているわが国では、高度成長期に建てられた膨大なストックをスクラップ・アンド・ビルドの体質から脱皮して、良質な社会資産として長期にわたって有効に活用されることが要請されている。しかしながら、わが国において保全は著しく魅力に欠ける業務として扱われていたため、建築技術者の関心が低いのが実態である。今後は、建設市場が西欧諸国の水準のように新築と維持補修の投資バランスが、7;3から6;4程度に変化すると予想されており、保全業務が建築のライフサイクルの中で使用過程でのマネジメント業務として魅力あるものに変化させなければならない。
 本書は、このような社会的背景に基づいて書かれたものとして、建築保全の全般について平易に解説されたものである。建築生産に携わる多くの技術者にとって建築保全の知識や技術が何であるかを理解するための入門書として最適の本である。内容的には、プロローグとして建築保全の必要性からストック文化への転換について建築業界の課題が述べられている。本文の1章では、“建築保全とは何か”のタイトルで建築の劣化と寿命、保全の費用、公共の特質等について分かりやすく解説されている。2章は、建築保全の実際について実例やデータを示した詳細な説明になっている。3章では、効率的な建築保全に欠かせない保全情報システムと保全設計や発注システムについて書かれているが、IT化の進展が激しい保全情報システムは別章で取り上げてもよい重要な課題である。4章では、建築保全の多様な取組みが実例で説明されている。最終章の5章は、“これからの建築保全”のタイトルで建築保全の哲学から展望まで含めた解説がされていて、この章を読むことで保全の全体像を掴むことが出来る。また、各章のタイトルの下に細字ではあるが、その章の概要が纏められているのは便利な配慮である。(大武通伯)