書名となっている「二都物語」は、ロンドンとパリの住まいのあり方の対比として用いられている。ロンドンの「テラスハウス」は、北ヨーロッパの中世の住宅が伝統的に農村住宅を源とし、土地を基本に各戸単位に重層化していることに対し、パリでは古代ローマ社会の複合住居の流れを汲んで、広い間口を持って積層していったものが、「メゾン・ア・ロワイエ」となったこと、そしてその両方とも都市との繋がりを持った街区の構成の要素となっていること、それに対して日本の狭小化した戸建て住宅や、都市のいわゆるマンションは、街との連帯や共同性を生まず風景の喪失感を生じている、と述べている。
以上の記述は、最近集合住宅の改修計画などで、私の感じている満たされない感覚の原因を指摘された気がした。また、日本の都市住宅の例として、よく引き合いに出される「町家」についても、日本的な境界処理法として「庇合」(ひあい)については、初めて知ることができた。
著者小沢明氏は、1959年早稲田大学建築学科卒、大林組を経てハーバード大修士、セルト・ジャクソン事務所、槇事務所に勤務ののち1980年独立。また、プロフェッサー・アーキテクトとして工学院大、東北芸術工科大で教鞭を執られた。この本には、東北芸術工科大での学長として(2002年〜2006年)の入学式での講話や、旧満州における住まいの原体験など、著者の豊富な歴史が語られている。さらに「コンバージョンとリニューアル」(1972年)や「美術館の終焉」などの評論に見られる著者の先見性に驚く。
私事に亘りますが、旧満州の瀋陽において、似たような体験をした者として、また同じ建築に携わった者として、著者に対する尊敬と共感の念とともに、ここにご紹介します。
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